従業員のメンタルヘルス不調者への対応
2011年12月の精神障害にかかる労災認定基準の見直しが行われてからメンタルヘルス不調による、労災認定件数が上昇傾向にあります。また、精神障害による自殺者に関する民事訴訟において高額な請求がなされるトラブルも急増しています。
厚生労働省は「4大疾病」と言われている脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病に、新たに精神疾患を加えて「5大疾病」とする方針を決めています。
このようなことからも職場においてメンタルヘルス不調者への対応は、いまや人事労務管理の最大の問題になっています。



企業はメンタル不調者への対応として大きく2つの対応が必要です。
(1)職場におけるメンタルヘルスケア
職場におけるストレスはもはや社員個人の努力で除去できるものではありません。会社全体でメンタル不調者を出さないための予防をすると共に、もし発生した場合に組織としてどのように取組むかを決めておく必要があります。
□メンタルヘルス対策の4つのケア
- セルフケア
働く人が自らのストレスに気づき、正しい理解、予防対処する。
・ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
・ストレスの気づき
・ストレスへの対処
- ラインによるケア(使用者の安全配慮義務)
管理監督者が日頃の職場環境の把握改善、部下の相談対応を行う
・職場環境等の把握と改善
・労働者からの相談対応
・職場復帰における支援 など
- 産業保健スタッフ等によるケア
事業場内の産業医、保健師や人事労務管理スタッフが労働者がセルフケア及
ラインケアが効率的に実施されるように支援するとともに、具体的なメンタ
ルヘルス対策の企画立案を行う
・個人の健康情報の取扱い
・事業場外資源とのネットワークの形成やそ窓口
・職場復帰における支援 など
※産業医、衛生管理者は従業員数が50名以上の事業所に選任義務あり
- 事業場外資源によるケア
地域産業保健センター、メンタルヘルス対策支援センター、健康保険組合
などの活用
人事労務管理における制度設計
(2)人事労務管理における制度設計
メンタル不調者が休職しようとしても会社の規定が整っていなければ安心して休職に入ることができません。また休職期間中の取り扱いや、万一休職期間が満了しても治らなかった場合にどのように対応するかも制度として整えておく必要があります。ここではトラブルの事例をもとに就業規則に定めておく内容を見ていきます。
〜 トラブル@ 医師の受診、休職の勧めを拒絶する社員 〜
最近のAさんは、遅刻、欠勤が多くなり、仕事中もぼーとしてミスを繰り返すなど、うつ病とも思える異常な状態。上司はAさんに、病院で受診を進めているが、全く受けようとしない。「私は病気ではないし、休職もしない」「私が休むと今の仕事が止まってしまい、同僚に迷惑がかかる」と言って拒みつづけている。症状は日に日に悪化している。
・会社が必要と認めた場合は医師の診断を受けることを命令できる
・医師の診断に基づき、会社は休職命令を出すことができる
〜 トラブルA 復職しないまま休職を続け、退職にも応じない社員 〜
従業員Aさんから提出された診断書によると「うつ状態であり、3ヵ月の休養を要す」とあった。また、回復の見込みもあるとのことで休職を命じた。しかし、 3ヵ月経ったが状態が回復せず、そのまま休職を続けている。就業規則には休職期間の定め、期間満了時の取扱いに関する規定がないので、職場復帰も解雇もできない。
・休職期間の上限を決めておく
・期間満了時の対応を決めておく
〜 トラブルB 休職と復職を繰り返す社員 〜
うつ病で休職していた従業員Aさんは、休職期間が1年であったが、6か月経過したところで、復職可能との主治医からの診断書を提出してきた。会社は復帰を認め、本人の体調を考慮し軽微な業務につかせた。1か月ほどして、体調不良となり、再度休職届を出してきたので休職させることになった。2回目の休職も3ヵ月を過ぎたところで、復職可能の診断書が出てきたので、会社は復職させた。結局このような休職と復職を繰り返し3年が経っているが、職場復帰も解雇もできない。
・休職期間の通算の規定を定めておく
・同一傷病でなくても通算ができるようにしておく
〜 トラブルC 休職期間中に会社と連絡がつかない社員 〜
うつ病で休職中の従業員Aさんは、自宅で療養していると思っていたが、他の従業員からパチンコや競馬場で見たとの証言があった。そこで、会社は回復の状況を知るために報告書を出してもらおうと連絡をしているが、返事がない状況が続いている。
・1ヵ月に1回程度の報告義務を課す
・主治医、産業医の意見を聞いて行動範囲を決めておく
〜 トラブルD 病状が回復していないと思われるのに復職を願い出る社員 〜
うつ病で休職中の従業員Aさんの診断を主治医に任せていたところ、3か月経過後「通
常の業務に復職が可能」との診断書が出てきた。しかし、人事担当者によるこれまでの定期面談の報告結果では到底回復しているとは思えない。
・セカンドオピニオンとして会社指定医に意見を聴く
・復職を認めない場合の十分な資料を収集する
対応する休職・復職規定は ⇒ここ
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